白岩吉明オフィシャルサイト、山岳写真ネットギャラリー、「内陸アジアの貌・フンザ物語・横断山脈・ウイグルの瞳」「エヴェレスト街道」「チベットのヒマラヤ」「ランタン谷」「黙示録」「

 

 
 
 
 
 

ランタン谷:7

 

 上:Naya Kang(ナヤカンガ)5846mLangshishs      ランタン谷を挟んで此の地の主峰ランタン・リルンに対峙するのが、このナヤカンガだ。幾重もの前衛山稜の奥に主峰がある、画面に雪壁を見せるのが主峰だ。主稜線は東西に長く、極めて大きな山体だ。東のコルには南へ抜けるGanja La峠が有る。

                   

 上:Langshishs Ri(ランシサ・リ)6427m 

 

 下:Ponggen Dokpu(ポンゲン・ドクプ)5980mLangshishs 

 

 

 

 上:Langshishs Ri(ランシサ・リ)6427m  

 

 

 

 石に刻まれた文字は「オン・マニ・ぺメ・フム」の真言だ。ランタン谷の道筋で数多く見かける光景で、日常に溶け込み、山岳と生命と真言が一体となり此の地を天界への回廊としている。今は天界に消え、此の風景は永遠に見る事は出来ない。

 

 

  山裾に在る天然の冷蔵庫で造る「チーズ工場」だ。ランタン谷のチーズは有名だ。近くには、チーズの為の小型飛行機用の滑走路もある。高所・寒冷の地に生きるヤクの乳によるチーズで味も臭いも辛みも総てが強烈で、強いブランデーにあう、其の為の酒を持ち山に入る。同じチーズも下界では此処での味は出ない。味とは舌だけが感じるものでは無い事を実感させてくれるランタン谷だ。

 

 

 春から初夏への季節を迎え畑の手入れの時期だ。日がな雑草を摘み小石を取り除き薄い表土を丹念に鋤いてゆく。標高が3800m前後の此の地では育つ作物はごく限られ、小粒のジャガイモと蕎麦位だ。表土に満遍なく散らばる小石は、山からの落石だろう。雪の季節に運ばれて来るのか、可成りの量だ。

 

 

 山肌を万遍無く石楠花が飾る。ランタン・コーラ沿いの南向き斜面はこの時期花盛りだ。開けた谷沿いの南斜面は広葉樹の格好の住処だ。谷を挟み対岸は北斜面となり、針葉樹の住処で、こちらは花の無い対極的な景色で、緑一色の世界だ。南向き斜面は崩壊台地でも有り、にぎやかでは有るが不安定な世界の様だ。

 

   下図はランタン・ヒマールの広域図だ。「ヒマラヤ名峰事典、平凡社」より引用し、之に必要事項を追加記入した。図中の印が今回の山旅で撮影が出来た高峰群で、水色がランタン・コーラだ。

   山岳写真の魔力は、自然界の謎の一画に自らの身を挺して挑む事にある。内陸アジアの高地には今も謎多き地が深い眠りの侭に今を生きている。ランタン谷もその一つだ。桃源郷を思わせる此の谷は眠りの侭あの世に去った。ランタン谷は幾本もの大氷河からの水流を集め、谷を深く抉り流れる。ランタン・ヒマールの多くの名峰は此の谷から屹立し、素晴らしい眺めを提供してくれる。この好条件が桃源郷を彷彿とさせる。深い谷は様々な姿を見せる、冷酷非情な激流が千尋の谷を奔るかと思えば、峠を越え、次に見せる姿は穏やかなトロだ。谷からの水蒸気は雲を生み、植物をはぐくみ動物を集め、人も集める。ランタン谷は地域の血管だ。処が、2015年4月の地震は山体崩壊を引き起こし、谷を埋め、この大切な血管に血栓やら動脈瘤を発症させ破裂させてしまったのだ。此の地が天界から帰るには時間は幾百年要する事か、桃源郷の再来を願う。

 

工業製品に埋もれた消費社会とは距離を置いた、内陸アジアの自然と人間を紹介いたします。此処には、私たちの美意識の源泉・文化の源泉が数多く現存し、自分が知らない事に驚きます。此処には有史以前から今も変わらない人跡未踏の雪山や氷河、0m地帯の広大な砂漠や標高5000mの草原、アジアの大河の源、幾百千年来の隠れ里等など、枚挙に暇の無い非日常が今も生きています。大地と太陽・水と植物・自然の恵みを友に、人口エネルギー消費ゼロで暮らす人々も沢山います。この地域の総面積は日本の国土の20数倍・北米の面積にも相当し、此の地の地下資源を世界は注視してます。近い将来の「地下資源&エネルギー」枯渇時に、工業生産國は衰退・崩壊する「現代文明の病理」を背負ってますが、内陸アジアは背負ってません。この問題は最終章「黙示録」で考察してます。内陸アジアには持続可能な社会の雛型が有史前から連綿と続いています。
 

 
 
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