白岩吉明オフィシャルサイト 内陸アジアの貌 ランタン谷:1 |
上の写真はランタン村の北面の景観で、山はキムシュン峰(6760m)だ、下図の「ランタン村周辺図」内の中央部「緑点線」が上の写真だ。下図はランタン村がキムシュン峰の直下にあり、此の山が地震で岩盤崩落を起こし、ナダレに飲まれた様子を示す、図は Google earth より衛星画像を収得し、之を立体化し、必要な情報を記入して創った。図中の右下は震源地の地図だ。 |
上図の2点は、2015年4月25日のM7,8の地震による山体崩壊の岩屑に飲み込まれ壊滅したランタン村の様子と、地震前の比較写真だ。壊滅の空撮写真は 2015年ネパール地震にともなう斜面災害(八木浩司氏/山形大学)を出典とする。2015年5月8日八木浩司氏(山形大学)が撮影したものだ。その下の壊滅前のものは白岩吉明が奇しくも地震の10年前の2005年4月25日に撮影したものだ、地形や遠景の稜線からほぼ同一アングルの写真と言える。学術的にも貴重な記録と成る。写真に写っている建物はロッジエリアの山小屋群だ、快適な洒落た建物が数多く有り、此の地の有名度を伺わせる。ランタン村の人々の居住エリアは絵柄の奥になる。 |
下図の2点はナダレのルート図だ。左は白岩吉明撮影の写真に書き込んだもの。右は Google earth より収得のデータで、この図はナダレが多発したことを示す。ナダレはランラン谷を越え対岸の山を駆け上がり、更に谷を埋めたとの記録も有る。ランタン谷を埋めた岩屑は堰き止め湖・氷河湖をつくり、今後これの決壊が、2次災害の危険を呼び起こす危険が有り、まだまだ予断を許さない。 |
ネパール地震 出典:click |
(2015年) 現地時間2015年4月25日11時56分にネパールの首都カトマンズ北西77km付近、ガンダキ県ゴルカ郡サウラパニの深さ15kmを震源とした発生した地震で、アメリカ地質調査所によれば地震の規模はMw7.8と推定されている。また中国地震局ではこの地震の規模をMs8.1としている。気象庁松代地震観測所によるMsは8.2。 |
この地震の強震によってネパールでは建物の倒壊、雪崩、土砂災害などにより甚大な被害が発生した。またインドや中国のチベット自治区、バングラデシュなど周辺の国々でも人的被害が生じた。地震動はメルカリ震度階級でIXがカトマンズで報告されている他、バラトプル、ビラートナガルでVIIIが報告されている |
メカニズム |
筑波大の八木勇治准教授の解析では、震源の断層は首都のカトマンズを含む周辺一帯東西150km、南北120kmに及び、4.1m以上ずれた地域もある可能性があることが判明した。都市直下型地震である兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の約30倍。地震のエネルギーは約1分かけて東南東方向へ伝播し、断層を南にずらした。 |
下図:復興されたランタン村の様子,2018年。 出典:clickc |
上図はランタン村を中心とした山域を、上空2万㍍から見たとする仮想の鳥瞰図だ、Google Earth より画像を取り、之を立体化した。ランタン村は背後のランタン・リルン峰、キムシュン峰、ヤンサ・ッェンジ峰に囲まれ、それぞれの氷河の舌端に位置し、極めて危険な場所と言える。ナダレの巣と成りえる場所に位置している事が鳥瞰図から見て取れる。このページの一番上の写真がその様子を良く示している。 |
下:Langtang Lirung(ランタン・リルン) 7225m |
ランタン・リルン(Langtang Lining ・ 7245m) 別名ガンチェン・レドルブGanchen Ledrub。 ランタン・ヒマールの西部,ランタン・コーラ右岸にあるこの山群の主峰首都カトマンズから65kmと,最も近い7000m峰の一つで,ランタン谷の玄関口にあたるランタン村の北方間近にそびえ立つ。上部はほとんど純白の雪に覆われ,ピラミダルな山容をもったランタン谷屈指の峰。 1978年の初登頂はリルン氷河より東稜を経由したが,近年の多くの隊は雪崩の危険を避けて南東稜あるいは西稜をルートとしている。高度は旧インド地図では7225m, P.アウフシュナイターの地図では7245mとされ,83年以来,ネパール政府もその値を公式高度とし,92年のE.シュナイダーの地図でも7245mとしている。山名の「リルン」はチベット語の「lirup」が転化したもので,「大きい」の意味で,「ランタン谷の大きな雪山」を意味する。 |
上図はランタンリルンとランタンⅡの西面を、下地図のシャブルベンシよりヘリコプターから空撮したもので、位置関係は下図のとおり。残念ながらランタンリルンは雲の中。眼下にはシャブルベンシが写る。 |
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下図はランタン谷の最深部の Langshisa Kharka(ランシサカルカ)4125mの幕営地。此の地は Langtang GL(ランタン氷河) Shalbachum GL(シャルバチュウム氷河) LangshisaGL(ランシサ氷河)の交点にあるモレーン台地だ。氷河端の此の地は長年に渡り氷河が運んだ堆積岩の開けた台地で、植物の限界地でもある。岩石と永久凍土の上の薄い土壌に苔と僅かな草が生き、これを糧にと春から夏はヤクの放牧地として使われている。人は住まず居るのは登山者とサポーターとヤクのみで静寂そのものだ。ここは足元から巨峰が屹立しロケーションは抜群だ。 |
下図:中央はラシンサ・リ、左はペンタ・カルポ・リ、右はウルキルマン。 |
ランタン谷の最深部の Langshisa Kharka(ランシサカルカ)4125mの幕営地。此の地は Langtang GL(ランタン氷河) Shalbachum GL(シャルバチュウム氷河) LangshisaGL(ランシサ氷河)の交点にあるモレーン台地だ。氷河端の此の地は長年に渡り氷河が運んだ堆積岩の開けた台地で、植物の限界地でもある。岩石と永久凍土の上の薄い土壌に苔と僅かな草が生き、これを糧にと春から夏はヤクの放牧地として使われている。人は住まず居るのは登山者とサポーターとヤクのみで静寂そのものだ。ここは足元から巨峰が屹立しロケーションは抜群だ。しかし山小屋等現地のサポートは無く総てを持ち込まなくてはならない。 |
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下図はランタン谷を囲む山々を見渡す鳥瞰図。 図は Google earth より画像を取り、これを立体化し山名表記を加えたもので、地域の概念表記には大変役に立つ。ランタン谷の北面の稜線は中国領のチベットとの国境線になる、国境は有っても地域全体の文化圏はチベット密教を色濃く保持する地だ。ランタン村の生活圏は標高3500m前後の過酷な環境にある。これ以上にランタン・ヒマールの高峰群の稜線北側に開けるチベット高原は、標高が4500m~5000mの高標高帯だ。チベットには湖面水位が5000mの湖もある、標高5000mでの地にも人々暮らす、チベットとはその様な地だ。ランタン村もその一角と理解し、物語を編んだ。ランタン村がチベット圏と大きく違うのは樹木の存在だ。なを、下図の「シシャパンマ・8027m」を中心としたチベットの山々は巻末の「チベットのヒマラヤ:3 ジュガール・ヒマール」click に掲載。 |
ランタン谷を遡上すると谷の奥の院にたどり着く、ランシサ・カルカと言う。此処は大氷河の交点でもある。北からはシャルバチュウム氷河が迫り、南からはランシサ氷河が、東からはランタン氷河が眼前を奔る。これらの氷河群が運ぶ岩や石や砂の台地がランシサ・カルカで、モレーン台地の見本の様な処だ。此処は命に不可欠な鉱物質を含む水が豊富な地でもある。長い年月をかけて氷河が砕いた岩石は微粒子化し、苔の栄養源となり、多種類の苔の命を育む。それの死骸を餌に草が育ち、進化の連鎖は広葉樹にまで至り 動物の生命圏と成って居る。ランタン村の人々はここを夏の放牧地として利用し、大型動物のヤクを放牧している。ランシサ・カルカは周囲360°名峰が囲むヒマラヤ屈指の仙境でもある。雪豹が姿を見せる事もあると云う、実際此の地に滞在中、山域を巡回レンジャーが情報を聴取に訪ねて来た。此処はネパール最深部であり、眼前の稜線の先はチベットであり、人々の宗教様式はチベット仏教だ。 |
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下図はヒマラヤ山脈の全長2400kmの内の中央部600kmの衛星画像だ。ヒマラヤ山脈は地球規模で見るとインド・プレートの北端部に成る。このプレートは年間おおよそ17~21mmの速度で、図中の上部茶色のユーラシア・プレートの下に潜り込み続け、過去のヒマラヤ山域で起きた地震は、全て此の事に起因している。2015年4月25日ネパール地震も同様であり、ここに紹介のランタン谷はこの日に壊滅的被害を受けた。此の物語をまとめながらの想いは、山岳写真とは、不安定な地球との瞬間の対峙であり、其処に光やら気象の関数が絡み、現実で有りながら、現実では無いと言う実感だ。更に一つ、下図はヒマラヤ山脈の中央部だ。此処には8ッの山域が在り、8000m峰を8座抱える。前記の様に図の全長は600Kmだ。ちなみにヒマラヤの全長は2400Kmで8000m峰は15座だ。図の茶色部分はチベット高原、ここの標高は4500m~5000mで、図中央部のぺク・ッォ湖の湖面標高は4600mだ。このチベット高原にも人々は暮らし、数多くの古来からの文化が今を生きて居る。 |
上:Ganchenpo(ガンチェンポ)6387m |
下:Kanshurum (カンシュウム)6078m |
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下:ランタン村は石の村でもある、端正に積まれた石組は、自然界に人間の存在を主張するかのようだ。此の地を襲った地震は岩雪崩をおこし、総てを飲み込んだ。土石流に飲まれた人工的な石は幾百年後かに現世に現れ人々に不思議を見せるだろう。下の建物はチベット仏教の経文を収めた円筒形の筒(マニ車)の収納小屋で、マニ車を水流で回す小屋だ。マニ車を回すと読経した事に成る。云わば自動読経装置小屋だ。小屋の端に見える 黄色・緑・赤・白・青の旗は「黄:金剛」「緑:忍辱」「赤:精進」「白:清浄」「青:禅定」を表す。軒先の横断幕も同じだ。これ等は何れも神神との人間界からの交信信号と見た。ご婦人の方々の日常の衣装やアクセサリーは、いずれもが個性豊かで色彩に溢れている、ランタン村を飾る花々と競うが如き色彩だ。村の総てが桃源の舞台を演出している。 |
道には人々の安全を祈願してのチョルテン(仏塔)とメンダン(マニ石の長い石壁)が続く、石にはオン・マニ・ぺメ・フムの多彩なマントラ(真言)が彫られ一つとして同じものは無い。仏塔を挟み道は右左に在り、仏教は左側を通行し、仏教以前から有る土着信仰のボン教は右側を歩く。仏塔を回る時は仏教は時計回り、ボン教はその反対の反時計回りで歩く。 |
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ランタン谷を埋める爛漫の石楠花を無造作に並べて見た、それぞれに個性があり野生的だ。植生の環境も多彩だ。此の多様性はランタン谷の石楠花の特徴と言えるかも知れない。意味する処は環境の多様性だろう、標高差・土壌の変化・日照差に太古を思わせる原生林の現存が考えられる。特に秘境に相応しい原生林は見事なものだ、高山性原生林は貴重な存在だ。然し今回の地震に依る山体崩壊は、之等に壊滅的破壊を加えた事だろう。山岳写真の撮影で入ったランタンヒマールであったが、2次的撮影のスナップ写真が、編集が進むにつれ主役の様相を呈して来た、山岳写真の弱さを思い知らされた1幕だ。此処の記録は貴重なものと思う。Net空間で之を世界に発信し、然も高画質で余す処無く伝える作業は、アマチュアだからのものだ。「プロ」は著作権が絡み、金額が絡み、気前の良い発信は躊躇するだろう。Net空間はアマチュアの独壇場だ。下図はヒマラヤの石楠花の分布図だ。 |
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神秘の「高山シャクナゲ(アンソポーゴン) 出典:click |
本来のシャクナゲは、ヒマラヤの高山奥地に自生する高山植物で、ネパールの国花になっています。シャクナゲは地域変異種が多く存在します。そもそもは、寒さに強く、蒸し暑さに弱い花木でしたが、19世紀には品種改良され、暖地でも育つ園芸品種として西洋シャクナゲが日本にも輸入されるようになりました。それらは主に赤やピンク、黄色、真っ白とカラフルで鮮やかな色が特徴的です。 |
ネパールの国花になっているのは「神秘の高山シャクナゲ(アンソポーゴン)」とは違う品種で、あきらかに花色も違います。国家に選ばれたのは「ラリーグラス」と呼ばれる真っ赤なシャクナゲで、とても鮮やかな品種です。この赤い色は、ネパールのユニフォームや、航空機のイメージカラーにもなっています。同じネパールに生えるシャクナゲでも「神秘の高山シャクナゲ(アンソポーゴン)」とはずいぶんイメージが違います。 |
高貴な美しさのシャクナゲですが、シャクナゲ(ロードデンドロン)には葉、茎、花ともに「ロードトキシン」という有毒成分を葉に含んでおり、摂取すると吐き気や下痢、呼吸困難に陥ることもあるそうです。ツツジ科の植物は有毒のものが多いので注意が必要です。 |
神秘の高山シャクナゲは、「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤ山脈の標高4500m前後、富士山頂よりも高いところに生息します。学名Rhododendron anthopogon D. Don、「アンソポーゴン」というロードデンドロンの亜種です。この学名には「ビーズを連ねたような花」という意味があります。アンソポーゴンの花色は、半透明のような神秘的な乳白色をしています。 |
シャクナゲは有毒植物だというのに、乾かした葉を焚いたり、化粧品に入れて皮膚に塗ったりしても大丈夫なのでしょうか。実はこの高山シャクナゲ(アンソポーゴン)には、不思議なことに毒が含まれないのだそうです。ネパールの現地ではお茶にして飲むこともあるそうです。 |
神秘の高山シャクナゲ(アンソポーゴン)の主要成分は、α-ピネン、β-ピネン、d-リモネン、δ-カジネンβ-オシメン、α-ムロレンなどです。ヒマラヤの民族は民間薬として「熱さまし」「肝障害の緩和」「呼吸器系のトラブル」などに使用していたと言います。 |
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上・下:Ganchenpo (ガンチェンポ)6387m |
ランタン・ヒマール南東部,ウルキンマンの西2.5kmに位置するヒマラヤひだに覆われた美しい雪峰。イギリスのH.W.ティルマンによって初めて試登され,その山容からブルーデッド・ピークFlutedPeakと呼ばれた。また,日本隊によって,一時キヤンジンと呼ばれたこともある。山名はチベット語で「ガン」は「雪または氷の山」,「チェン」は「大きい」,すなわち「大きな氷の山」の意。 |
上:Naya Kang (ナヤ・カンガ)5846m |
ナヤ・カンガ峰は下記のポンゲン・ドクプ峰の西に連なる大きな山塊で、ランタン村の南正面に堂堂の姿を見せる。写真は夜明けの陽が変わる一瞬だ。斜光が山襞を浮き上げヒマラヤ特有の山容を見せ付ける。被写体までの距離は大凡6000m程だ、400mm望遠レンズが見事に被写体を捉える。スローシャッターを2台の大型三脚で耐える。降り止んだ新雪の中での撮影だ。 |
下:Ponggen Dokpu(ポンゲン・ドクブ)5930m |
ポンゲン・ドクプは幾つものピークを抱え、幅広い岩壁をランタン村の南東正面に見せる。写真は其の一画を撮った。前日からの降雪が上り、ガスの中から姿を見せる一時だ。山には朝景色が似合う、とりわけ雪上がりの表情は多彩だ。此の山は右手には堂堂のナヤ・カンガ峰を、左手にはガンチェンポ峰を抱え、いささか見劣りし、560ページも有る「ヒマラヤ名峰事典」には一言の紹介も無い極めてローカルな山だ。 |
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下:Naya Kang (ナヤ・カンガ)5846m |
ナヤ・カンガ峰は上記のポンゲン・ドクプ峰の西に連なる大きな山塊で、ランタン村の南正面に堂堂の姿を見せる。写真は黎明の姿。月明りが陽に変わる一瞬だ。斜光が山襞を浮き上げヒマラヤ特有の山容を見せ付ける。被写体までの距離は大凡6000m程だ、400mm望遠レンズが見事に被写体を捉える。暗闇の中での撮影、スローシャッターを2台の大型三脚で耐える。降り止んだ新雪の中での撮影だ。 |
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下:Kimshun(キムスン)6745m |
この山はランタン・コーラ沿いのランタン村北正面を飾る。ランタンの3本槍とも呼ばれ、鋭い岩峰が天刺す様に屹立する、写真には其の2本が写り、3本目は左の雲中の為カットした。2015年4月25日の地震で山体崩壊を起こしランタン村を襲ったのは、この山の中服の岩盤崩落だ。古い地図ではチベット語でツァンプ・リとあり「神の子の山」を意味する。崩壊は神の怒りなのか、涙なのか、我らには元より知る術もない。神の子の山が未踏峰なのがせめてもの救いだ。 |
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